お金の流れが変わった! ~新興国が動かす世界経済の新ルール~
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1.超大国G2の黄昏
○アメリカ
・唯一の大国→黄昏の大国
・冷戦終結後「わが国の繁栄はこれから半世紀は続く」と豪語していたが、それからわずか
10年後、ブッシュ一人のおかげでひっくり返った。
・そもそもの間違いは、「米・ソ対立」から国内のユダヤ人に配慮し「米・イスラム対立」へと
方針をシフトしたこと。
・「チェンジ」を信じてオバマに政権を任せるも迷走。
・2008年9月に大手証券会社リーマン・ブラザーズ破綻後、ATG/シティバンク/バンクオブ
アメリカといった金融機関やGM/クライスラー等の民間企業に大規模な公的資金を投入。
・この資金調達のため、「ホームレス・マネー(余剰資金)」を呼び込んだ。
・民間企業の公的救済、相次ぐ量的金融緩和、アメリカ経済はいっそう混迷の色を強めている。
○中国
・1989年頃、中国のGDPは九州の70%程度。
・2003年頃から急激な成長が始まり、2010年に中国GDPは日本を追い抜いた。
・2009年にはオバマ大統領が「21世紀を牽引するのはアメリカと中国」と述べ、事実上の
G2宣言。
・「保八」・・・毎年8%の経済成長を続けないと、大量の失業者が出て暴動が起こる。
・リーマンショック以前は、沿岸部の保税地区に海外企業を誘致し、輸出入関税を免除。
・リーマンショック後は、自慢の輸出に陰り。
・人件費の高騰が要因。中国政府は労働者の給料を毎年15%ずつあげる政策をとった。
現在、中国の人件費はヴェトナムの3倍、ミャンマーの10倍。世界の輸出基地になるという
経済成長モデルは行き詰まり。
・2008年12月以降、内需振興に切り替え。
・昨今、様々な問題が顕在化し始めている。
・国民の反政府運動・・・農地を収奪し商業地に転換。土地を奪われた人が土地の流民に。
・中国バブルの崩壊・・・2010年4月「一部都市の不動産価格の早すぎる上昇の抑制に
関する通達」により、不動産価格の下落。
高級自動車販売の停滞。銀行の貸し渋り。
2.お金の流れが変わった!
○ホームレスマネー:最盛期は約6,000兆円。現在も約4,000兆円。
・ノルウェー/スウェーデン/カナダ/オーストラリア/アメリカ/ドイツ/イギリス等の
古くからOECD(経済協力開発機構)に加盟している国々の余剰資金。
・原油価格の高騰で中東産油国に積み上げられた多額のドル。(オイルマネー)
・中国マネー。中国の外貨準備高は2兆7,000億ドル。
○世界は多極化の流れを加速。世界の投資マネーを集めているのは新興諸国。
○ASEANの注目株、インドネシア。
・2004年にユドヨノ大統領就任後、大きく成長。
・過去の脱税を不問に付し、税収50%増加。
・多くの企業が倍々ゲームで成長。日本企業も成果を上げている。
○その他、中東の盟主となったトルコ、ロシア、チリにも注目。
○この新しい21世紀の世界観を持つことが日本の再活性化に不可欠。
・米中日という世界観は時代遅れ。
・欧米だけではなく、BRICsやVITAMIN等の超有望先進国候補が生まれてきている。
・50年前の日本と同じポテンシャルと規模を持つ経済が、20くらい形成されつつある。
3.21世紀の新パラダイムと日本
○経済のボーダレス化:マクロ経済政策の効果は逆になる。
・古典経済政策は、労働と生産が国境の内側にある閉じた世界だけで行われることが前提。
・モノや金が国の中だけで動いているならば、「金利を上げるとお金を借りる企業が減り、
投資が行われずに景気が冷え込む」という理論が成り立つ。
・経済がボーダレス化すると、マクロ政策の効果は逆。
・信用ある国が景気を引き締めようと金利を上げたとすれば、今は高金利と見るや、
海外からボーダレスマネーが流れ込んでくるので景気は過熱する。
○経済のサイバー化:ジャスト・イン・タイムの衝撃
・通信/運輸/金融の変化により、供給者と消費者がジャスト・イン・タイムで直接取引き
することが可能になった。注文を受けてから生産を開始すれば良いので、在庫を持たなく
なった。
○経済のマルチプル化
・金融工学の発達により、手持ち資金に何倍ものレバレッジをかけた売買が可能に。
・企業が市場から資金調達しようとする時、株式発行額のは時価であり、PER(株価収益率)
が高い企業ほど投資家の注目を集め、より多くの資金を調達できる。
・これからはマルチプルを理解し、積極的に自社のマルチプルを高めるような経営者
でなければ生き残っていけない。
○日本にホームレスマネーが来ない契機となったのは、米国の投資ファンド:スティール・
パートナーズがブルドックソースを買収しようとした時、ブルドックソースが行ったボイズン
ピルを有効とした最高裁判決。
・日本の株式市場の落ち込みは、米国の金融危機によると言われているが、あの判決が
分水嶺であったことは明らか。
○日本国際大暴落の可能性
・2010年度予算(一般会計総額)は92兆円超と過去最大規模。
・税収は37兆円あまりで、財源不足は「埋蔵金」と赤字国債発行で補おうとした。
・このまま赤字国債発行を続け、格付け機関が日本国債格付けをダブルB以下にすることが
あると、海外投資家は一斉に日本国債を売り浴びせに走る。彼らの保有率は6%と低い
ものの、すぐに日本国際は大暴落するだろう。
○政権交代は誤り
<内政> ・社民党や国民新党と不必要な連立を組み、国民の生活第一ではなく参議院の
マジョリティ確保という政党の都合第一で政治を進める。
・普天間問題をとことん迷走させ、郵政改革を完全に後戻りさせた。
<外交> ・日米機軸を日米中として、アメリカの怒りを買う。
・尖閣諸島問題では、中国との密約/暗黙の合意を知らず、中国を激怒させた。
・北方領土問題では、自民党によるアヒルの水掻き的な交渉努力を、前原氏の
「日本固有の領土」「厳重抗議」でぶち壊し。
4.新興国市場とホームレスマネー活用戦略
○新興国は、かつて日本が通過してきた高度経済成長を今やっている。そこで何をやれば
うまくいくのかを知っているのが日本企業の強み。
○新興国で成功を収めるための攻略ポイント。
1) 公共事業
・道路/空港/港湾/ダムなどのインフラ整備
・中でも鉄道。JR東日本のビジネスモデル(鉄道を含めた地域生活/コミュニティ総合
産業)は世界で通用する。
・日本の私鉄モデル(ディベロッパーであると同時に都会にスラムを作らないという役割)。
・鉄道モデルの輸出は各社レベルではなくワンセットで進出すべき。
・日本に任せれば30年早く先進国にキャッチアップできる。都市からスラムが無くなり、
鉄道が生活の一部になる。ケータイが電子財布になる。公害が解消される。こういった
興奮を新興国に与えることができれば、官公需ビジネスにおいて日本は一人勝ち。
・日本の原理力発電技術は高い。
・ヴェトナムにて二基の原子力発電所建設の独占交渉権を日本が獲得。
・化石燃料に代わるクリーンエネルギーで圧倒的に優れているのは原子力発電。
・現在、原子炉建設技術を持っているのは、米国(GE、ウェスティングハウス)、
仏(アレバ)、日本(東芝、三菱重工、日立製作所)。
2) 法人需要
・工作機械や印刷機械、プラスチックの射出成形機械、自動化装置、ブルドーザー等
・ブルドーザーは日本の小松製作所と米国のキャタピラーのみ。
3) コンシューマ需要
・富裕層(年間所得2万ドル:約1.75億人)
・中間層(年間所得3千ドル:約14億人)
・BOP層(年間所得3千ドル以下:40数億人) ボトル・オブ・ザ・ピラミッド
・BOP層向けには、CSRと企業戦略を一致させたビジネスが成功の要諦。日本は企業
活動で得たお金を社会活動に使うのがせいぜい。
・「ネクスト・マーケット」(C・K・プラハラード教授著)。新興国向けのビジネスを考える際、
大いに参考になる。BOP向けのビジネスを展開したい企業の必読書。
○日本経済成長の処方箋
1) 税制の見直し
・所得税を下げるべき。アメリカもイギリスも所得税率を下げて、増収を実現。正直に申告
しようとするものが増加するため。
・税金は所得よりも資産にかける。
・相続税を期限を区切って撤廃。若い世代に膨大な資産が移れば、景気刺激の重要な
要因となる。
・贈与税を免除。
・法人税の引き下げ。
・減価償却期間の短縮。
・ロボットの減価償却期間を2年にすると、その2年後には日本は世界一のロボット
大国になった。
・ロボットに100億円投資。減価償却期間が8年なら帳簿上の年間コストは12.5億円。
これが2年なら50億円。損金に算入できる金額が増え、15億円の節税効果となる。
・建物(鉄筋コンクリート47年、木造22年)を一律15年にすれば、大建設ブーム。
2) 内外から投資したくなるような「物語」が必要。(湾岸100万都市構想 等)
・土地の規制緩和。
・工業用地、市街地調整区域といった規制を、中央省庁から基礎自治体に。土地の
使用に関する主導権を完全移管。
・シャッター街化した駅前の商店街を株式会社化し、開発事業者に株式の三分の二を
買い取ってもらう。再開発が促進される。
○日本の最大の成長分野は大都市。
・日本の大都市は戦後の焼け野原の混沌を引きずっている。
・民主党が自民党の方法論と決別できるかは、「都市の再開発」を唱えられるか否かによる。
・日本劣等の均衡ある発展という田中角栄の呪縛と決別し、都市を21世紀型に生まれ変わ
らせることこそ、経済拡大の最大のポイント。